Kievとの戦い

 購入記にも書いたようにSALUTを買うに当たって多少のトラブルは覚悟の上であったが、期待にそぐわずこのカメラ、さまざまな事件を引き起こしてくれた。以下にあるのはその事件のメモだが、私が更新するつもりが無くても順調に更新され続けている。


 謎の撮影済みフィルム

事件の第一弾は、買ってきたカメラを使おうとフィルムをセットしようとしたときに早々と発生した。マガジンを開けてみると何故か既にフィルムが入っているのである。一瞬サービスで新品のフィルムを入れてくれたのかと思ったが相手は旧ソビエト、サービスとはもっとも無縁な国の1つである。それによく見るとすっかり巻き上げられていて、どう見ても撮影済みのフィルムである。
販売店の話によればこのカメラいろいろトラブルが多いので販売前に一通りチェックするそうだが、それではチェックに使ったフィルムであろうか。だがそれにしては古そうなフィルムである。まあ、フィルムに限らず旧ソビエトの製品は新品でも中古でも外見に大した違いが無い上に、下手をすると新品でも最初に「修理」が必要だったりすることがあるので外見からはいつのものか判断できないが、仮に検査用の新品だったとしても引き出して現像しなくては検査にならない筈だ。


				

 とにかく悩んでもしょうがないので早速現像してみることにした。だが問題はどういう処理をすればいいかである。もしカラーだったらラボで処理せざる終えないし、間違った処理をしてしまったらフィルムはおろか他の機材にも影響が出てしまう。予想した通り、あてにしたプロラボも上記の理由で処理を断られてしまった。
こうなったら自家現像しかない。こうしたときに自宅に暗室や現像設備を持っていて良かったと思う。だが問題はどういう処理をするかである。頼りになるのはフィルムに書かれた文字だけだが、例のキリル文字で書かれている文字は読みすら見当もつかない。このためにわざわざ購入したロシア語辞典にも載っていない単語だったところを見るとおおかたメーカー(?)名あたりが書かれているのかもしれない。
もはや手がかりは、一度持ち込んだプロラボの人に言われた「多分モノクロームでは無いでしょうか」と言う言葉だけである。やむなくもっとも一般的なモノクローム処理をすることにした。

 小説やエピソードに出てくるような美女でも写っていないかと思いつつ、マスコタンクにフィルムをセットし、数少ないもう一つの手がかりである書かれている64と言う数字からISOを64と想定してミクロファインでごく標準的な処理を行った。
 期待しながら水洗処理も待ち遠しくフィルムを引き出すと、ちゃんとモノクロームのフィルムではあったものの残念ながら前半部分は真っ黒に、後半部分は何にも写っていない状態だった。おそらくもともときちんと写っていない状態だったか、フィルムが入っているのを知らずに誰かが一度開けてしまったのだろう。いかにもロシア製のフィルムらしく遮光ペーパー以外はフィルムにも会社名もコマ数も何もない本当に乳剤しか塗られていないフィルムだった。


				

 期待通りには行かなかったものの、これだけでラボに出した時間も含めて1週間近く退屈せずにすんだのだから、娯楽としては上等だ。そしてその期待にそぐわず事件はまだまだ続くのだった。


 早速の故障

 こうして購入早々早速事件を起こしてくれたKiev(SALUT)だが、ロシア製カメラの鉄則にのっとり返却が利くうちにすぐに試し撮りをしてみると、付属のマガジンの1つを除いて心配していた光漏れもなくちゃんと写っている事が分かった。だが安心する暇もなくそれから一週間もしないうちに早速シャッターが壊れてしまった。
 もともとKIEVの元になったHASSELBLAD1000自体シャッターには問題が多く、今中古で出回っている1000シリーズでも多くはシャッターの保証無しで売られているのが現状である事からもわかるように一概にロシア製だから悪いとは言えないのだが、それにしてもあっさりと壊れてしまったものだ。ロシア製に限らず昔のカメラでは使い方のルールが厳しくて手順を間違えたりするとてきめんに壊れてしまうので、注意したもののどこかに間違いがあったのかも知れない。ちなみに参考までにKIEV80シリーズ(昔のSALUTから今の88CMまでを含む)のやってはいけないリストを参考までに載せておく。今のカメラになれた身としては信じがたいかも知れないが、これが普通だったのだ。

・フィルムを巻き上げる前にシャッター速度を変えてはいけない。
・遮光板を抜いた状態でマガジンは外れない、無理にはずすと故障の原因になる。
・レリーズをセットしてバルブの状態でシャッターを押したまま巻き上げてはいけない。
・マガジンと本体側の巻き上げチェック用の穴の色が合っていることを確認する。違っている場合、一度マガジンをはずして巻き上げるなどして、マガジンと合わせる必要がある。

この様にいろいろあるが、このうちのいくつかは今のHASSELなどでも守らなくてはいけない。昔のプロ用中版カメラというのはシビアな操作が要求されるものだったのだ。

 さて壊れてしまった以上、修理しなくてはいけないわけだが、これがロシア製のカメラの場合なかなか面倒な事なのだ。なぜなら元の値段が安くても作りは普通のカメラと大差ない上に、下手をすると部品の精度が低かったりするのでかえって修理しづらいものらしい。おかげで修理してくれるところが少ない上に、やってくれても下手をすると修理代が本体価格よりも高くなってしまうのだ。幸い買ったところではまだ保証期間中だったのと、直接ロシアに送って修理しているので修理を頼めたが、ウクライナに行ったカメラは半年後の今もまだ向こうに行ったきりである。


増え続けるレンズとボディ

 こうして壊れてしまったカメラは保証修理でウクライナに行ってしまい、しばらく手元に無い平穏な生活を送っていたのであるが、皮肉なことに手元にカメラ本体が無いときに限って珍しい交換レンズが次々と見つかって手元にはレンズばかり増えていくことになる。
 最初に手に入れたのはアルサット30mm対角線魚眼レンズだった。いろいろ悪名もあるもののKievを入手しようとする人の多くは、この対角線魚眼レンズを使うためと言われるほどこのレンズは人気があるのだが、その理由はツァイスの魚眼レンズに匹敵する映りながら値段は1/20と言う点にある。それがWebなどで知られるようになったせいか、このレンズは国内の中古カメラ屋でごくたまに見かけることがあってもあっという間に売れてしまい、King-2などでは予約注文さえ締め切ってしまう状況になっている。
これをたまたま渋谷東急の中古カメラ市で売られているのを見つけてしまった物だから、その場で購入したのは言うまでもない。
なお老婆心ながらここまで読んで自分でも手に入れてみようなどと思った人のために言っておくと、このレンズはKIEVマウントの他にも東ドイツのペンタコン6や、さらに改造でmamiyaマウントにしたものなどが多く出回っているので、よけいな苦労をしたくなければそういった物を手に入れることをお勧めする。

 これで終わればまだ良かったのであるが、さらに国内で持っている人が何人いるかもわからないHARTBLEI(ハートブレイ)の45mmSiftレンズまで海外の店で見つけてしまったので始末が悪い。ちなみにこのレンズの問題はレンズ自体より無事に手に入れられるか分からないと言う点にある。これを扱っているHARTBLTYがチェコスロバキアにある会社のせいもあって、手紙やmailなどが無事届いているかも分からなければ、送られてくるのがいつかも、そもそも無事送られてくるかも分からないのだ。そんな危険な物であるが、そもそもシフトレンズ自体が絶望的に少ない中判カメラにおいて、安くしかも写りの良いシフトレンズが6×6でファインダーを見ながら使えるのであるから、多少のリスクはあっても手に入れたくなるのは当然だろう。
幸いこれを見つけたKiev-cameraと言う店はアトランタにあるアメリカのお店で、少なくともHARTBLEIよりは信用できるところである(と思う)。だがさすがはKievを扱っているだけあって、日本のオンラインショップで買うような訳にはいかなかった。別にいい加減な店では無いのだろうが、とにかく日本人の感覚からはアバウトすぎるのである。
なにせ、mailを出しても本当に必要最小限の返事しか帰ってこないありさまなのだ、おかげで日本の店のようにほっておいても向こうから気を利かせて連絡してくるだろうとたかをくくっていても返事がないのに業を煮やして、Faxでこちらから注文したのだが何の連絡もないまま2ヶ月以上も経ってしまった。さすがにだまされたかと思っていたところ、いきなり現物が送られてきたのはいいものの、さすがはKievを扱っている店だけあってしっかり注文したkiev88ではなくその改良版のKiev88CMを送ってきたのである。
Kiev88CMはKiev88の改良型でフレアの元になると言われていた金属製シャッターを布製に変えたりと言った様々な改良が行われた製品で、品質も数少ない外貨を稼げる製品のせいかロシア製とは思えないほどしっかりした作りのものでそれは構わないのだが、問題はマウントがKiev88とは互換性がないペンタコン6マウントになっているのである。一緒に送られてきたシフトレンズもペンタコン6マウントで、値段もKiev88と同じ値段にしてくれたのはありがたいが、おかげでさらにマウントの互換性の無いボディが増えてしまったことになる。しかしそれから数日後送られてきた段ボール箱を片づけようとして梱包材を捨てていると、その奥にちゃんとkiev88フォーマットからペンタコン6フォーマットにするアダプターが入っているではないか。そしてkiev-cameraに改めて感謝するとともに自分のおっちょこちょいぶりを恥じ入るのであった。


今度はマガジンが壊れたぞ

こうしてようやくきちんと動作するボディが来たのだが、今度はいつの間にかマガジンがおかしくなっていることが判明した。ボディにセットして巻き上げても、巻き上げが行われないのである。取り外して調べてみると、巻き上げ用の歯車が引っかかっているらしく、チャージした状態から元の位置に戻らなくなってしまっていた。爪で軽く力をかけると戻るので、あるいはスプリングが弱くなっているだけかもしれないが、いずれにせよそのままでは支障があるのは言うまでもない。幸いkiev88のマガジンは昔kievがマガジン・レンズ込みのセットでしか売られていなかったときに、故障したボディを治すために購入された余りが中古市場にごろごろしていて3000円〜から売られているので代わりを探すのはそれほど難しくはないが、いずれにせよよけいな出費と手間が増えてしまったことには変わらない。こうしてSALUT(Kiev)は手に入れてから半年もたつのに未だにきちんと撮影できないでいる。これだけならとんだ不良品だが、逆に半年の間にこれだけイベントを引き起こして撮影もさせないのに持ち主を退屈させないというのはすごいことである。


マガジン捜索記

上の記事でkievの予備マガジンなど中古市場にごろごろしていると書いた報いでもないだろうが、その後予備マガジンを探しにいったところ思っても見ない事態に遭遇してしまった。それは中古マガジンがないのである。そもそもkievなどという信用出来なさそうなカメラを扱うなどこの不景気にはリスクが大きいと思われたのか、単になにかのタイミングで無いのかは分からないが新宿や渋谷の中古店を何件かまわってみても、ほとんど見つからないには焦ってしまった。なにせ、下手に修理でウクライナ当たりに修理に出す羽目になったり、新規で購入することになったらまたいつ手元に来るか見当も付かないからである。
ようやく最後に新宿中古カメラ市場という委託品を売買する専門店で見つけたものの、案の定これも外れてあった。だが見かねたお店の人が奥からなんと段ボールにぎっしり入ったkievのマガジンを出してくれたおかげで、片端から付けては試し、付けては試しときちんと動くものをチョイスすることが出来た。よくkievの買い方で店にあるものを試せるところでは、在庫を全部出してもらって片端から試してきちんと動くものを買った方がいいと言う話が載っているが、まさか自分でやることになるとは思わなかった。
だがおかげさまで、動作もばっちりのマガジンを見つけることが出来とても助かった。これも持っていったkievに45mmシフトレンズを付けていた徳だろう。
冗談抜きで、このレンズよっぽど珍しいのか探しに行った中古カメラやさんではどこでも大受けであった。たとえライカのフルセットでもこうはいかないだろう。こうしたことがあると、たとえトラブルがあってもkievを買って良かったと思うのだ。


これって修理じゃ・・

あれから約一年、正確には11ヶ月ぶりにようやく修理に出していたSALUTが戻ってきた。
もともとKievシリーズは構造が複雑でまともに国内でなおしていたのではとても採算がとれないし、そもそも国内で直してくれるところはどこにもないことは知っていたので覚悟はしていたが、それにしても1年近くもかかるとは思わなかった。なんでも店の方いわく向こう管理がルーズらしくいつ送り返されてくるのか全く分からない上に修理に出すと何故か送ったのと違うシリアルナンバーの製品が送り返されてくるそうで、案の定送ったSALUTもいつの間にか違うナンバーのものになっていた。(これって修理とは言わず交換なのでは・・)
まあ、ロシア本国で車を買うときの小話では買って最初にやることは「修理」だそうで(「整備」ではない)、それも普通に頼んでいると永遠に直ってこないので、まず工場のおっさんに金をつかませるとその場で別の修理中の車から必要な部品をもいで直すそうなので、きっとカメラも多かれ少なかれ同じようなものなのかも知れない。
こうしてようやくSALUTも戻ってきたわけだが、手元にはすでに代打として手に入れたマウントの違うKiev88CMと60マウントのレンズ群が居座っている状態で、正直オークションにでも出してしまおうかと思っている。


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