暗室日記

 上にも書いたように運良く一軒家に移ったのをいいことに、こんどは念願の暗室を作ることにした。思えば高校時代の友人は写真部のやつだったし、大学は美大で暗室が4つもあるところだったというのに当時は写真に全然興味がなくてせっかくの設備を使わずにきたのは今になってみればもったいないことをしてしまったものだ。
 当時は別に大したことのない設備だと思ったものもいざ自分で揃えるとなると結構お金がかかるのには驚いてしまった。こんなことならもっと元を取っておくべきだったと思ってもあとの祭りである。

 幸い、先ほどの高校時代の友人が個人で引き伸ばし機を持っていると言うのでわざわざ車を出してもらって借り受けることが出来た。他にも探すと結構いろんなところから暗室用品を見つけだすことが出来たので最初覚悟していたよりは安く機材を揃えることが出来たのは幸運だった。パーツの1つの80mm引き伸ばしレンズなどは新宿のカメラ屋さんの中古カメラコーナーで3000円で売られていたものだったが、使ってみた限りではなんら問題ないものだった。
 暗室用品が安いのは、店としてもかさばる割にはあまり売れないこれらの製品はあまり置いておきたくないのと、日本の住宅事情が悪いせいか、暗室を作っても引っ越しやら結婚やらで手放さざる終えない人が結構いるためらしい。そういえば引き伸ばし機を譲ってくれた友人も結婚してから実家に置きっぱなしだったそうだ。ちなみにこうした事情からか暗室用品を置いてある店はとても少ないので、探すのは大変だった。

 こうして引き伸ばし機と暗室用品を手に入れたものの次にどこに設置するかが問題だった。最初はパソコンのある作業部屋に置くつもりだったが、なぜかすでに手狭になっていたのと古い家であちこちからすきま風ならぬ隙間光が漏れてくるので、やむなく寝室の押入に設置することにした。この部屋には水道がないのが面倒だが他に置けるところが無いのだからしょうがない。

 暗室を手に入れて自分でフィルム現像や引き伸ばしをして気がついた事として、必ずしもお店のDPEが完全な仕上がりでは無いと言うことだ。と言うのは、撮る方としてはフィルムによって露出をオーバーにして現像は早めに切り上げようと思っていたり、超微粒子や祖粒子仕上げに現像したいとか考えていても、こうしたお店ではある程度大量のフィルムをまとめて処理する都合上、どうしても最大公約数的な仕上げにせざる終えないからだ。もちろんプロラボに出して細かい指定をすればいいかもしれないが、金額の問題もあるし、なにより気楽なのがいいのだ。おかげでいろんな失敗もしたが、いろんな実験をすることも出来た。

 しばらくして実家に帰ることがあってたまたま父に暗室の話をしたところ、意外なことに父親も現像・プリントをやっていたのを知って驚いた。父親は昔はアルバムを人並みに作ったりしていたものの、およそ写真などには興味がなさそうだったからだ。なんでも父親の時代には今のようなDPEなど無かったので、写真を撮る人なら誰でも現像・プリントが出来たと言うか、自分でやるしか無かったそうだ。今では特殊技能になりつつある暗室作業も昔は当たり前の作業だったのは不思議な感じだった。今、普通に行われているものの中にも、やがては特殊な技能や趣味になってしまうものもあるのだろうか。


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